何かいい事きっとある
2015年2月18日は夢のような、走馬灯のような一日であった。
子供の頃から繰り返し繰り返し見てきた大長編ドラえもんの中で、最も大好きだった作品を挙げるとするならそれは、『雲の王国』、『ブリキの迷宮』、『ドラビアンナイト』の三作品である。
その三作が同日に上映されたのが2015年2月18日の神保町シアター。
行かないわけがない。
何度も見なおしてきた三作品の物語は、まるで「迷路探査ボール」を使ったかの如く隅々までしっかりと記憶していた。それはもう同時にセリフを言えるほど。眺めているだけで自然と口許と涙腺が緩む。
初っ端から『雲の王国』で嗚咽するほど涙する。
大長編のお決まりである、のび太の「ドラえもーーーーん!」からのチャラララ♪の流れ。安っぽいCGのOP映像。それだけで幸せだ。
劇中、王国で遊ぶ場面のBGMに『雲がゆくのは』が流れてホロリ。
「迷子探し機ごはんだよー」の完璧すぎる伏線、そこにまた追い打ちを掛けるかのように『雲がゆくのは』が流れ、鼻水がたらり。
タンクに突っ込むドラえもん、トドメのキー坊で涙腺崩壊、嗚咽。
もちろん、楽しい場面もいっぱいだ。
リサイタルを開催しようとするジャイアンに対するスネオの苦言、それに対するしずかちゃんの「ダメよ、そこまで本当のこと言っちゃ」発言は今回一番の場内爆笑ポイントだったかもしれない。
超どうでもいい細すぎる発見がひとつ。のび太ママの見ていたテレビの落語が「世の中いろいろなことがありますなぁ。さっきまで晴れていたと思ったら急に雨が降ったり…」などと言っており、「ノア計画」を予言している。「ノア計画」は怖すぎる。
言うことなしです。超面白いです。少々原作の短編ネタを盛り込んでいるため、それを知らない人はキー坊やドードー鳥、ホイ君らの登場について行けないところがあるかもしれない。
それにしても、環境問題という子供には難しいであろうテーマを平然とやってのけるのはさすがだ。そこにシビれる!あこがれるゥ!
同時上映の『21エモン 宇宙いけ! 裸足のプリンセス』もシンプルながら簡潔に描かれた子供向けSFとしては秀逸だ。監督は本郷みつる、音楽は田中公平。そりゃもう!
同じく同時上映の『トキメキソーラーくるまによん』は原由子の名曲『東京ラブコール』が使われていて、不意打ち感動。このタイアップは知らなかった。やられたー。
一番泣ける作品が最初に来てしまったため、続く『ブリキの迷宮』はなんとか涙腺崩壊を免れての観賞。それでも目頭は熱いままで危険な状態は続く。
カーディガンしずかちゃんが妙に愛らしい。
「足元には四次元くずかごだろ。枕の下にはさ…枕の下には!?」のひらめきは、わかっていても思わずガッツポーズしてしまうほど胸熱の展開だ。
この作品の言いたいことは実にわかりやすい。道具に頼ってばかりではいけない。これに尽きる。ドラえもんも劇中何度も口にしていることだ。そのため、この作品ではひみつ道具の使い方が実に上手く描かれているのだ。
たとえば、劇中に登場するひみつ道具のひとつである「絶対安全救命いかだ」は、スピードを上げるためには自らオールで漕がなくてならないという、便利でありながらも自身が力を添えなくてはならない、ただ楽をするための道具ではないところがなんとも粋じゃあないか!
また、最後の戦いでもひみつ道具に頼っていなかったりする。タケコプターすら使わず、飛行機のオモチャや風船のようなもので飛んでいた。「改造」という謎の工作を加えているが。笑
エンドロールの島崎和歌子姉さんで堪え切れずにポロポロと涙が溢れる。みんながそれぞれ海外で春休みを満喫するなか、野比家はピクニックというところが泣ける。サピオの走りもまた勇気づけられる。こんなに感動的なエンドロールを見たことがない!
ところであのラビリンスの入り口の怖さは、まるで子供のことなんて何も考えていないような怖さだ。「ノア計画」もそうだが、当時の大長編はそういうことを平然とやってのける!そこにシビれる!あこがれるゥ!
同時上映の『ドラミちゃん ハロー恐竜キッズ!!』は原恵一が監督。こちらも『21エモン』と同じく単純な子供向けな作品ながらも、大人になっても隅々まで見て楽しむことのできる作品だ。「おたすけ大福」の登場で昔一度見た記憶が蘇る。だがほとんど記憶にない。
『ドラビアンナイト』の同時上映『ドラミちゃん アララ少年山賊団!』は、短編作品の中では一番好きな作品だ。
ただ、「道具に頼るな!」がテーマである『ブリキの迷宮』を見た直後にセワシの「イス、テーブル」→自動でウィーンのシーンを見てしまうと、なんとも言えない複雑な気持ちになる。
このお話はやっぱり最高なんです。白飯、焼き魚、トマトが食べたくなる。原恵一伝説のはじまりのみち。
さて、本編『ドラビアンナイト』は大長編の中ではナンバー1と言えるほど大好きな作品だ。このお祭りを、この一番好きな作品で〆られるなんて嬉しい話だ。
もう冒頭から、宇多丸師匠のいうところの興味の持続がすでに始まっている。「一体ドラえもんとのび太はどこでなにをしているんだ?」という興味。まるでもう冒険が始まっているかのような冒頭場面は本当に素晴らしい!
「絵本入りこみ靴」という道具のファンタジー感は胸が踊るような道具じゃないか。
そのまま絵本の世界での冒険だけで十分ひとつの映画が作れてしまう、そんなひみつ道具を登場させているのに、そうはさせないのが藤子・F・不二雄先生だ。
絵本の世界に閉じ込められたしずかちゃんが迷い込んだ「アラビアンナイト」の世界が実在したとわかり、それならタイムマシンで助けに行ける、とかいうこのいよいよ冒険が始まる感が全開の展開に、我々は興奮を抑えきれない!
さらわれてしまった憧れの女の子を男の子たちで助けに行く。それは無難でありながらもいつまで経っても最高に熱いテーマなのだ!
絵本の世界というファンタジー感から、バグダットへ飛びたち砂漠を進む男臭いロードムービー感。その切り替わりをこうも自然に描けるのはドラえもん映画ならでは。
4 次元ポケットを奪われひみつ道具が使えないことで、中盤に登場するシンドバッドのコレクションが際立つ際立つ。また、それらが未来の道具であるとわかった 時の興奮。それはつまり、世界中で有名な絵本や神話の不思議話は未来人が関わったものだったのか、と想像できる。そこがまたファンタジーじゃないか。
しずかちゃんとの再会は涙無しでは見ていられない。そのタイミングで流れる、白鳥英美子の『夢のゆくえ』はずるい。
あなた 魔法をかけたでしょう
だから 不思議なことがおきる
これはずるいですね。
そしてポケットを取り戻してからのドラえもん無双。さすが未来のガイドロボット、ミクジンさん!俺たちにできないことを平然とやってのける!そこにシビれる!あこがれるゥ!
そんなわけで私のドラえもん映画祭2015、大満足。
帰り道、死んでしまうんじゃないかというくらい思い出が詰まっていた。
「ぼくたちは、ドラえもん映画で育った」
まったくその通りだよ。素敵な想いつなぎあわせて少しずつ出来るネックレスだよ。
最後に。35周年、おめでとう。